コストとは言うまでもなく、売上創出のために支払うお金のことです。したがって、コストは本来的には「かかる」という受け身の性質のものではなく、売上創出のために主体性を持って「かける」ものと言えます。そして主体的にコストをかけるとは、そのコストの必要性や額の大きさについて決裁者が完全に納得して判を押すということです。そこには曖昧さは一切許されません。このコストの原則をまず再確認することが大切です。

しかし会社経営を積み重ね、経営者が全社コストの細部にまで目が届きにくくなると、どうしてもこの原則が見落とされがちになります。「相場が下がっているのに割高のまま材料を仕入れ続ける」、「不必要な備品を購入する」、「意味のない会議費を計上する」ということがあちこちで起こってきます。やがてそのムダが当たり前になり、毎年そのムダなコストを払い続けることになってしまいます。

このような会社ではムダなコストのおかげでその期の利益を圧迫しているだけではありません。より長期的には、ムダなコストのために本当に将来のために必要なコスト、すなわち「投資」を十分に行うことができず、将来の自分の首をも絞めていることになるのです。

コストダウンは大きく分けて次の2段階で考えます。

第1段階の目的は現状のコスト構造を把握し、標準コストに収まるようにコストをコントロールすること(標準を守らせるための管理)であり、第2段階の目的は標準コストそのものを下げていくこと(標準を変えるための管理)にあります。

(1)現状把握と標準コスト構造の実現

最初の段階は、前述のように、もはやコントロールできなくなっている様々なコストの実態を把握して、ひとつひとつのコストを全て棚卸ししていくことから始めます。製品別、部門別、勘定科目別など様々な視点から分析することが必要になります。

そして「これは全くのムダである」とか、「項目自体はムダではないが払い過ぎである」とか、あるいは逆に「これはもっとコストをかけるべきだ」といった具合に、払っているコストの必要性と額の妥当性を全てチェックします。日常的な残業や非効率な仕事の仕方をしていないかなど、労務費や間接人件費などについても必ずチェックしましょう。コストの中でその絶対金額が大きいもの、最近増加傾向にあるものなどがコストダウンの優先対象となりますので、特に細かく確認します。

そして標準的なコスト構造を明らかにし、削減に向けた具体的な取り組みを開始します。その際には従業員全員を巻き込んだ業務改善活動なども不可欠でしょう。取り組みの結果、標準コスト構造に姿に近いレベルでコストをコントロールできるようになったら第1段階の完了です。

 

(2)標準コストの引き下げ

次の段階は、当面定めた、標準コスト構造を様々な工夫を行うことによって、さらなるコストダウンにつなげていくことです。第1段階で定めた標準コストは、以前から実施している方法によって計算されたものです。したがって、より効率的な方法に改善することができれば、現在用いられている標準コストそのものを引き下げることが可能です。

ここでは製造方法や販売方法、あるいは管理方法などを改善することで、より安価にかつ迅速にできる方法がないかといった視点で考えます。

たとえば製品スペックの見直し、生産ラインの組み替え、品種の絞り込み、原材料の変更、原材料調達先の変更、物流体制の見直し、多能工化の推進、各種アウトソーシングの活用、人件費の安い海外での生産などの方法が考えられるでしょう。