「initial public offering」の略。株式を新規に市場に上場すること。

多くの起業家にとっても株式上場は一つの大きな目標です。もちろん上場自体がゴールではありませんが、さらなる会社成長に向けた資金調達の道が拓けたという大きな意味があります。このように株式上場による資金調達メリットは大きいのですが、逆にデメリットもあります。上場のメリット・デメリットを整理すると以下のようになります。

(1)メリット

「資金調達力の増大と財務内容の改善」

銀行借入ではなく返済する義務のない多額の資金を公募増資によって広く集めることが出来る。これによって自己資本の比率が増し、財務体質が大きく改善される。

「経営管理体制の強化」

株式上場を行なうためにはその準備段階において経営管理体制をしっかり整備しなければならない。経理、財務については監査法人によって上場の条件となる会計基準に沿って監査される。同様に取引内容や契約書について弁護士の監査もある。さらには証券会社、上場する市場の審査では、事業の安定性、健全性、成長性などが厳しく評価され、初めて上場が許される。この結果、上場にたどり着く頃には管理体制が格段に向上していることになる。

「社会的信用や知名度が増す」

前述のように株式上場のためには厳しい基準をクリアする必要があるため、上場企業は社会的信用力を得る。上場企業という信用により、大企業との取引もしやすくなる。また社員は上場企業に勤めている事に対し自信とプライドを持つことができる。新規の採用も行いやすくなる。

「資産の形成」

上場により保有株式の株価が上昇すれば、創業者はもとより、従業員持株会、ストックオプション等を通じて社員の資産も増大するというメリットもある。ベンチャー企業の創業当初においては資金的に余裕がなく十分な給与を出すことが難しいことがほとんどである。そこで上場を目標に掲げ、優秀な人材確保のためにストックオプションを活用するケースも多い。

「上場準備期間における会社と社員の一体感の醸成」

社員が高いモチベーションで働くための要件として、「社員の目標と会社の目標が一致している」ということがあげられる。「株式上場」は正に双方にとって非常にわかりやすい一致した目標であり、全社一丸で取り組むことによって一体感を醸成できる。

(2)株式上場のデメリット

「株主対策」

株式を上場している以上、誰もがいつでも株主になることができる。自社の株式が投機的な取引の対象となったり、自社にとって好ましくない株主に大量の株式を買い占められる可能性も十分あるのだ。株主総会でも株主が自社を信頼して、長期保有してもらえるように安定株主対策を考慮しなければならない。

「ディスクロージャーの手間と費用」

上場企業には決算発表、有価証券報告書、四半期報告書など定期的な情報開示のほか、株価に影響を及ぼす可能性がある情報については適時適切に開示することが義務付けられる。さらにこれまではごく内輪で済ましていた株主総会についても、上場会社としての法令に則って厳格に行わなければならない。

「自由な意思決定への制限」

株式会社の運営は、株主から出資された資金をもとに、社長や取締役が最適な会社経営を委託されて行うという仕組みになっている。創業直後の会社では通常は社長をはじめとした創業メンバーが株主である。株主でもある創業メンバーが集まれば、いつでも簡単に臨時株主総会を開催できる。また自社の内容をよく知る者同士であり、社長の意思決定も理解を得やすい。しかし上場すれば不特定多数の外部の株主が存在することになり、多数の株主の意向を無視した運営はできない。たとえば、長期的な成長のために大規模な投資を行うことで、短期的に収益が悪化した場合、収益悪化が想定内だとしても株価が急落し、株主総会が紛糾することなどが予想される。つまり経営の自由度が制限される。